梅毒(ばいどく)とは、梅毒トレポネーマという細菌が原因の主に性的接触を通じて感染する性感染症(STD、STI)です。その他の感染経路に妊娠中の母子感染があります。
梅毒と聞くと昔の病気のイメージがあるかもしれませんが、石川県内でも2013年頃から増加しコロナ禍の2021年以降は爆発的に増加しており社会問題となっております。コロナ禍での患者数が急増した原因はマッチングアプリの流行が影響しているといわれています。
男性では20~50歳代どの年代にも万遍なく見られますが、女性は20代や30代の若い世代で特に多いです。若年女性の梅毒患者の増加により先天性梅毒(生まれつきの梅毒)の患者数も増えてきていることが問題視されています。
梅毒トレポネーマは粘膜や皮膚の小さな傷から血流やリンパの流れにのって全身に散布され、様々な臓器で炎症を引き起こし多彩な症状が現れます。口の周り・陰部・肛門周囲のシコリ(初期硬結)やキズ(硬性下疳:こうせいげかん)、頭部の脱毛、全身の紅い斑点(バラ疹)、手の平や足の裏の乾癬に類似したガサガサした赤い斑点(梅毒性乾癬)、鼠径のリンパ節腫脹といった症状から咽頭痛・咽頭の粘膜斑・視力障害・聴力障害・頭痛・筋肉痛・発熱など一見関係なさそうにみえる症状が現れることもあります。このように様々な症状が出現することから梅毒はthe great imitator (偽装の達人)ともいわれています。
感染から1年以内は性的接触で相手への感染力が強いのでこの時期を早期梅毒、それ以降を後期梅毒といいます。
梅毒トレポネーマが侵入した部位に局所的に形成される病変を一次病変といい、体内に散布された先の臓器で形成される病変を二次病変といいます。一次病変の症状が目立つ時期を早期梅毒第1期(感染から1週間~3か月)、二次病変の症状が目立つ時期を早期梅毒第2期(感染から1か月~1年)とおおまかにとらえられています。
梅毒の症状
梅毒は、皮膚や粘膜などに症状を認める時期と、症状を認めない無症候期を繰り返しながら進行するのが特徴的です。つまり無治療でも一旦症状が消えてしまい治ったと誤解されることがあります。梅毒は感染成立後の期間と症状によって、病型が分類されます。
早期梅毒第1期…感染成立後から1か月前後(1週間〜3か月)で、典型的には感染部位に痛みを伴わない硬いブツブツやシコリ(初期硬結)が現れます。初期硬結は次第に潰瘍化し、硬性下疳(こうせいげかん)となり強い感染力を持ちます。この段階では、感染部位が限定されていて感染部位近くのリンパ節が腫れることがありますが、約3週間程度で無治療でも自然に消退します。局所の症状が消退後は次の早期梅毒第2期の発症まで数ヶ月程度の無症候期に入ります。
早期梅毒第2期…第1期梅毒の症状が消退しておよそ4〜10週間程度の潜伏期間を経て発症します。この時期はバラ疹とよばれる発疹を認めたり、手のひらや足の裏を中心にガサガサした赤い斑点が多発したり(梅毒性乾癬)、円形脱毛症のような脱毛(梅毒性脱毛症)、肛門や陰部に隆起するブツブツ(扁平コンジローマ)、咽頭や口腔内に粘膜症状(梅毒性粘膜疹)など多彩な症状が出現することもあります。
後期梅毒…感染から1年以上経過した活動性梅毒。性的接触での感染力は低下していくとされています。しかしながら、無症状であっても活動性があると判断され治療を要するケースもあります。また、後期梅毒のうち感染から年数が経って皮膚・心血管・脳神経病変などが生じる第3期梅毒もあります。
梅毒の診断方法
以前と比較して典型的な症状を呈する梅毒は減少傾向となってきています。例えば、以前は梅毒によるリンパ節腫脹は痛みを生じないとされてきましたが最近は疼痛を伴うこともしばしばあります。その他、これまでは梅毒による潰瘍(キズ)は痛みを伴わず、ヘルペスによる潰瘍(キズ)は痛みを伴うので梅毒とヘルペスの見分けに役立つとされてきましたが、最近では梅毒による潰瘍(キズ)も疼痛を伴う症例がしばしばみられます。ですので、皮膚や粘膜の所見だけでは診断することは困難です。
梅毒を疑うときには採血で梅毒抗体検査を行います。梅毒トレポネーマ抗体(TPLA)、非トレポネーマ脂質抗体検査(RPR)を同時に測定します。一般的にはTPLAとRPRが陽性である場合に梅毒と診断しますが、早期の梅毒、特に感染後1か月前後はTPLAもRPRも陽性にならない場合があることが知られてきました。性風俗産業の利用歴や皮膚粘膜所見などで梅毒を疑う際には一度の検査で梅毒を否定せずに2~4週間後に再度検査することが日本性感染症学会の梅毒の診療ガイドラインでも推奨されており当院でも医師が必要と判断すれば再検査を行います。
梅毒の治療
梅毒トレポネーマという細菌に対して治療効果を発揮するペニシリン系の抗菌薬であるアモキシシリンの内服治療を行います。その他にはステルイズという筋肉注射で治療する場合もあります。また、ペニシリン系のお薬にアレルギーがある方はミノマイシンというお薬で治療を行います。抗菌薬の内服期間は1か月が標準で、採血でTP抗体やRPRの値を確認しつつ必要に応じて1か月単位で内服期間を延長していきます。
当院では、梅毒を含め性感染症の治療を得意としている皮膚科専門医が採血を行いながらの治療を行っていますので、梅毒を疑う場合にはご相談ください。